本気の瞬間を聴く

眠眠打破にとってゆかりのある “その道のプロ”に聴く、3人に突撃インタビュー!

「本気の瞬間」、「勝負の時間」をテーマに3人のプロの本音に迫りました。熱いインタビューをぜひご一読ください。

<佐々木大樹選手>

1998年にレースデビュー。レーシングカートで数々のタイトルを獲得し、2008年からはカートと並行して本格的な4輪レースへの参戦も開始する。その後、ニッサンの若手ドライバー育成プロジェクト「ニッサン・ドライバー・デベロップメント・プログラム(NDDP)」のドライバーに選ばれる。その支援の元でレース活動を行い、2012年には全日本F3選手権のNクラスでシリーズチャンピオンを獲得。また、現役の慶應義塾大学の学生でもあった(2014年に卒業)。2013年はNDDP RACINGのドライバーとして新たにSUPER GTのGT300クラス(パートナーは星野一樹)にフル参戦(17位)。2014年はKONDO RACINGからGT500クラスに参戦。

※この記事はRBBTodayに公開されました。

佐々木選手は今季、「眠眠打破」もサポートするKONDO RACING(率いるのは近藤真彦監督)から「SUPER GT」シリーズの「GT500」クラスに参戦している。マシンはカーナンバー24の「NISSAN GT-R NISMO GT500」、コンビを組むドライバーは大ベテランのミハエル・クルム選手(夫人はテニスのクルム伊達公子選手)。まずは、現在22歳の佐々木選手がGT500で走っていることの意味と価値、これを説明しておこう。

自動車レースの世界というのはとても複雑。ただ、大きく分けるならその系統は2つで、F1のようにタイヤがむき出しのマシンで競う「フォーミュラ」系と、タイヤがボディに覆われた形状のマシンで戦う「ハコ車」系ということになる。日本を中心に開催されている「SUPER GT」は、ハコ車のレースでは日本最高、あるいは世界最高といってもいい人気を誇るシリーズで、競技レベルも極めて高い。そのSUPER GTのなかでも上位クラスに相当する「GT500」に現在参戦中の15組30名のレギュラードライバーのなかでは、佐々木選手が最年少。国内外の精鋭レーサーが集う場所に22歳の若さで挑んでいる。

この事実だけでも佐々木選手の能力と将来的期待値の高さが理解していただけるものと思うが、話を聞いてみると、どうやら佐々木選手は、「本気の瞬間」や「勝負の時間」を自分自身の気持ちのなかでコントロールする術を、幼少時から体得していたようである。

---“職業”と呼ぶのにはちょっと特別なところも大きい職業ですが、佐々木選手がレーシングドライバーを目指すようになったきっかけは、どのようなものだったのでしょうか。

佐々木:僕、最初はレースに興味とかなかったんですよ。

---小さい頃にF1やSUPER GTを見て憧れて、というパターンではなかったんですね。

佐々木:僕の場合は全然違いますね。6~7歳の頃、父に「面白いところに連れていってあげる」って言われて、初めてゴーカートに乗ったんですけど、そのときもアクセル踏むのが恐くて……。ものすごく嫌でした。

---今、GT500で富士スピードウェイの直線を時速約300kmで走っている人の言葉とはとても思えませんけど、もしかしたらお父さまが自動車レース関係者かファンで、息子をレーサーにしたかった、ということですか?

佐々木:僕の父はボートレース(競艇)の選手養成学校の教官をしていたんです。

---すると、お父さまはエンジンを積んで速さを競う競技を何かしら佐々木選手にやってほしかった、ということでしょうか。

佐々木:僕があまり背の高い方じゃなかったので、何か自信のもてることを幼少時からやらせてあげよう、ということだったんだと思います。カートは身長が低くてもできますからね。

---格闘技やバスケットボールなどとは違って、カートやボートレースでは身体が小さい方がむしろ有利。とにかく、お父さまは佐々木少年に勝負の世界に生きる人間になってほしかったんですね。

佐々木:そうだと思います。ただ、最初はスピードが恐くて、乗るのが本当に嫌でした。「アクセル踏めない」って言うと、父にガムテープでグルグル巻きにされてアクセルを戻らなくさせられたりもしましたけどね(笑)。

---さすがボートレース学校教官、という感じの厳しさですね。22歳にしてGT500まで栄達したトップドライバーの初期経験談としては、佐々木選手の場合は意外なエピソードも多い印象です。乗るのが恐かったカートですけど、どのタイミングで佐々木少年の心境が変化したのでしょうか?

佐々木:小さい頃のことなのでよく覚えていないところもありますけど、乗っていくうちに、子供ながらに吹っ切れるタイミングって来るんですよ。そこから、楽しみながら乗れるようになっていったんだと思います。まだそんなに速いレベルのカートではなかったわけですけど、「意外といけるじゃん」と自分で思ってから、ですね。

---カートで活躍した佐々木選手は、その実績と才能を評価されてNDDP=ニッサン・ドライバー・デベロップメント・プログラムに抜擢されます。そしてフォーミュラチャレンジ・ジャパン、全日本F3選手権Nクラス(2012年に同クラスでチャンピオン獲得)を戦い、SUPER GTではGT300クラスで2013年に初のフル参戦を経験、今年GT500にステップアップしました。レーサーという職業には、プロか、そうでないかの境界線が難しいところもありますが、これを職業にしていくんだ、という気持ちが固まったのはいつ頃ですか?

佐々木:やっぱり、日産の若手育成プログラム(NDDP)に入った16歳のときですよね。

KONDO RACING / NISSAN GT-R NISMO GT500

---嬉しさや、到達感のようなものもありましたか。

佐々木:いえ、やっぱり「まだまだこれから」という気持ちでした。NDDPに選ばれたからといって誰もがGT500までいけるわけではないですし、NDDP入りはまだまだ過程でしかないわけですからね。それよりも、メーカーの支援を受けてレースをするようになったことで、自分が勝てばいいというだけじゃなくて、全体のことも考えてしっかりやっていかなくちゃいけない、という意識をもつようになったことが大きかったと思います。

---全体のことを考えて、ですか。

佐々木:NDDPは若手育成プログラムですから、自分が結果を出すことで次の年以降にもつながったりする面がある、そういったことを考えるようになったというか、もう自分勝手に「やめた」とか言えない立場ですし、頑張っているのが自分だけではないなかで、本当に頑張らなきゃいけないな、という思いをもちました。

---16歳にしては、大人びた意識ですよね。

佐々木:レースになればがむしゃらにやっていたんですよ(笑)。でも、がむしゃらなだけで成績を出せなかったらダメなんで、結果を出さなければいけないということを強く意識するようになりましたね。もちろん、勝たなければいけない、という気持ちはカートを始めた頃からありましたけど。

---そういう意味では、それ以前からすでに身についていた意識でもあった。

佐々木:はい。日産さんに支援していただいて戦うことになったなかで、看板を背負っていることに対するプロ意識みたいなものがなおさら強くなった、ということだと思います。

---さて、プロフェッショナルレーシングドライバーという職業の実態は、なかなか一般の人には分かりにくいところもあると思いますが、週末のレースを走ればいいというだけではありませんよね。開発テストやスポンサーさんとのプロモーション活動、そしてご自身のトレーニングなどがあるわけですが、今季の佐々木選手はSUPER GTだけでなくF3やスーパー耐久にも参戦と、かなりのハードスケジュールぶり。8週で6週がレースだったりすることもあれば、海外にトレーニングに行ったりもされるとか?

佐々木:最新のドライブシミュレーターに乗りに行きます。このレース(8月9~10日のSUPER GT富士戦)が終わった翌日の月曜に出発予定です。

KONDO RACING / NISSAN GT-R NISMO GT500

---ここ最近で、トレーニング以外の予定がない、ほぼ完全オフの日って……。

佐々木:ほとんどないですね。旅、旅、旅で、自分の家で寝ていないくらいです。ホテル生活が続くと、たまに朝起きたとき、自分がどこにいるのか分からなくなります(笑)。

---そういうなかで、どうやって自分の時間をコントロールしているのでしょうか。もちろんレーシングドライバーの生活はすべてが勝利に向かっての「勝負の時間」であり「本気の瞬間」なのですが、意識することによってその性質は異なってくると思います。気持ちのスイッチの切り替え、これは必要になりますよね?

佐々木:そこは自分でも、すごく、コツをもっていると思います。僕の場合、レースと並行して勉強(学業)もしてきたので。

---佐々木選手はレース活動と並行して受験勉強にも取り組み、慶応義塾大学に入られたんですよね。まさに学業との両立です。

佐々木:集中するタイミングと、息抜きするタイミング、そういうメリハリは本当に子供の頃からやってきていますから、今やるとき、今やらないとき、力を入れているとき、入れていないとき、みたいな区別が自分のなかではしっかりできているんです。だらだら3時間勉強するんじゃなくて、それだったら1時間でしっかり終わらせて、その後は友達と電話するでもなんでもいいんですけど、息抜きする。そういう切り替えができるように、自分でも小さい頃から頑張っていたんだと思います。だから今、ずっと(ハードスケジュールが)続いても、超疲れる、というようなことにはならないですね。

---コツというと、何か具体的な方法が?

佐々木:具体的には……。本当に、意識の部分ですね。カートで全日本のレースに出ながら受験勉強もして、という時期が一番、ためになったと思います。

---どっちも、それひとつだけで大変なことですものね。それを両立させなければならない環境が、そういう切り替えの力を培ってくれた。

佐々木:はい。効率と計画性、ですね。

---幼少時からそれが自然と根付いて、思考の癖のようになっているんですね。とはいえ、スイッチ入れるときには必ずこれをしているな、というようなことは何かありませんか? たとえばコーヒーを飲むとか、お風呂に入るとか。

佐々木:掃除をしますね。

---掃除ですか?

佐々木:直接的な意味での掃除というよりは、整理、準備ですかね。何て言うか、やり始めないことには何事も始まらないわけで、やるってなったら、これとこれとこれをこういう順番でやって、次にあれやって、これやってと、計画表を書きます。受験勉強時代は特にそうしていましたね。向こう1週間くらいの計画を立てる。そのときが切り替えのタイミング。

---切り替え、そして本気で取り組み始める決意のタイミングなんですね。

佐々木:はい。僕、机が汚いと勉強する気にならないんで。できる環境、向かう態勢をまずつくって、ということです。計画を立てて、目標に向かうという意味では、受験とレースは似ているところもあると思います。それに、やっぱり最後は気持ちだと思いますしね。負けたくないという気持ち。レースはもちろん、受験もそうで、負けたくないじゃないですか。僕の場合、レースだけ負けたくない、ではなくて、受験でも何でも負けたくない。負けず嫌いなんですよ。できることはしっかりやって、勝ちたい。

---勝負するときにしっかり集中して勝負する、計画を立てて万全の準備をして事にあたる、そして万事に負けたくない気持ちをもち続ける。高い意識で行動してきた佐々木選手ならではの「切り替えの心得」を教えていただきましたが、多くの人は、なかなかそうはできずに日々、自問自答しています。どうしたらいいんでしょう?(笑)

佐々木:やっぱり、悔しいと思うかどうか、ですかね。たとえば勉強(学業)で、成績が悪くてもいいや、ってなってしまったら、永遠に勉強なんてしないじゃないですか。もともと勉強が好きな人なんて、あんまりいないでしょうし。だから、悔しいと思うか思わないか、あるいは、どれくらい危機を感じているかが重要なんでしょうね。そう思えないってことは、そこまで自分がそれを追い求めていないってことですから。

---なるほど。ところでレースというのは、走っているドライバーだけが仕事を頑張っても勝てないわけで、若手の佐々木選手とはいえ、チーム全体をモチベートするというか、そういう部分で意識されているポイントもあるかと思います。

佐々木:コミュニケーションを取ることですね。レースの話だけじゃなくて、何気ない、たわいもない話もチームスタッフといろいろ話すんです。話をすると、その人の性格って分かりますからね。そうすると、レース(マシンの調整)についての話でも、もっと分かり合える。

---同じことを伝えるのにもAさんとBさんとでは効果的な伝え方が違ってくるので、それをきちんと理解する、ということでしょうか。

佐々木:そうです。人によって、絶対に違うんですよ、ベストな伝え方は。この人にはこうやって伝えればいいんだな、ということが、コミュニケーションを取ることで分かる。コミュ二ケーションの重要性は、学校や会社でも同じなんじゃないかと思いますけどね。

---これも他の仕事との共通点かと思いますが、レースにはチームで戦っているからこその喜びもありますよね。

佐々木:はい。レースのいいところって、優勝したときにチームみんなで喜べることなんですよね。やっぱり仲間がいて、みんなで「おめでとう」って言えること、これがレーシングドライバーという仕事の一番の醍醐味だと思います。もちろん、どうドライビングしたらどうタイムに影響するのかを考えて、それを実際にマシンに乗って実践して、1000分の1秒でも速く走るということ自体も楽しいですけどね。

---今年は近藤真彦監督のチームでSUPER GTを戦っていますが、近藤監督もレースと芸能活動を両立されてきた方です。そのあたり、監督から吸収している部分もあるかと思います。

佐々木:監督も本当に両方頑張っている方で、両方負けたくない、という気持ちが強いのは僕と一緒なんだと思います。両方頑張っているからこそ、どっちにもプラスになる。僕の場合、勉強(学業)も頑張ってきたから今があるんだと思います。片方に絞ったらいいかというと、そうではないですね。

---最後に、将来的な目標を聞かせてください。

佐々木:GT500でチャンピオンを獲ることはもちろんですけど、日産が来年からWEC(世界耐久選手権/ル・マン24時間レースを含むシリーズ)に自社チームで参戦しますから、僕も世界の舞台でチャレンジしたい、という気持ちは当然あります。フォーミュラの方では、今F3に乗っていますので、次はスーパーフォーミュラ(国内フォーミュラレースでF3の上、最高カテゴリー)に乗りたい。とにかく、世界の舞台でも「速い」「ぶつけない」「壊さない」でトップ争いができる、チームやメーカーが安心して見ていられるドライバー、本当に強いドライバーになりたいと思っています。

2014年8月20日(水) 19時30分 writer 遠藤 俊幸